元物理学・宇宙物理学専攻(物理学第二分野)所属 青山 秀明

 
 

私の枕元には、よく、猫のドロンコがやってくる。彼女がこの世を去ってもう数年経つが、なぜかよい話し相手である。

とある夜中、目が覚めるとやはり彼女が来ていた。

 

私    ― やあやあ、また来たね。今日は何の話をしようか

ドロンコ ― 秀さん、退職したんだよね。私を拾ってくれた吉田南のキャンパスから理学研究科に移ってきて、もう十数年も経つね。どうしてるかなと思って、来てみた。

私    ― そう、理学にも長くなったよ。研究生活はとても充実していて幸せだった。

ドロンコ ― なんだか、変わった研究ばかりしてなかった?

私    ― あはは、素粒子論研究室に居たのに、言語学や経済学でも面白い研究がたくさんできたよ。

ドロンコ ― それでよかったの?

私    ― うん、たぶん。理論物理学の分野では、持てるものを全て使って、他の分野での研究をする例は多いから、物理教室の人たちは温かく私の『より道』を見守ってくれたんだろうね。そうそう、超並列計算機やスペースシャトルの事故原因解明などで有名なファインマンさん、複雑系に進んだゲルマンさんも、素粒子の先達たちだ。

ドロンコ ― 秀さんはCaltechの大学院であの人たちと交流があったんだよね?

私    ― そう、彼らは実に刺激的な人たちだったよ。ファインマンさんは特にね。あるとき、彼のいたずらに引っかかったこともあってね、、、、、。

ドロンコ ― はいはいはい、昔のことはもういいよ。それより、これからの話をして。

私    ― そうだね。この4月から、大学院総合生存学館(思修館)の特任教授になったよ。

ドロンコ ― そこで何をしてるの? 相変わらず、毎日朝から夜まで家に居ないけど。

私    ― 研究三昧さ。退職前から『京』コンピュータで経済学の研究をする萌芽プロジェクトを持っていたけど、今はそれで雇ってもらってる。次世代は『富岳』となって、ますますこれから面白くなるよ。

ドロンコ ― 楽しそうね。でも私の後に来た5匹の猫たちを可愛がるのも忘れないでね。

私    ― もちろんさ。彼らにはよろしく言っておくよ。また遊びにおいで。

 

ふと気づくと、夜は明けかかっていて、ドロンコ猫の姿はない。さて、今度はいつ彼女と会えるだろうか。